1991年、イタリアのボローニャで、音楽学の世界に大きな一石を投じる出来事がありました。それは、イタリア音楽学会が手がけた『音楽史』の第二版の出版です。このプロジェクトを率いたのは、学会の会長だったアゴスティーノ・ジィーノ。彼と学会の仲間たちは、音楽史の書き方を再定義し、音楽の本質を再考することに挑みました。今回は、その背景と意義を分かりやすく解説していきます。
音楽史の新しい視点：なぜ今、見直す必要があったのか？
音楽史というと、過去の音楽家や作品をただ順番に並べて記録するもの、というイメージが強いかもしれません。でも、ジィーノたちが目指したのはそれだけではありませんでした。彼らは、音楽が時代の文化や社会とどう関わってきたかをもっと深く掘り下げ、音楽の「意味」を見直そうとしたのです。
例えば、従来の音楽史は、ヨーロッパ中心の視点に偏りがちでした。しかし、イタリア音楽学会は非ヨーロッパの音楽や異文化との交流にも目を向け、音楽が持つ多様な顔を描き出そうとしました。この新しいアプローチは、音楽をただの「音」や「作品」として捉えるのではなく、それが生まれた背景や影響を探ることで、より豊かな理解を促します。
音楽と社会のつながりを強調
第二版の『音楽史』が特に重視したのは、音楽が単なる芸術表現ではなく、社会や文化の一部として発展してきたという視点です。音楽家たちは、ただ楽譜を書き、演奏するだけでなく、時には政治や思想の流れに深く関与してきました。この背景を理解することは、音楽がどれほど時代と密接に関わってきたかを知るために重要です。
例えば、古代ギリシャやローマの音楽も、単に楽器や音楽形式を学ぶだけではなく、その時代の社会的・文化的な役割を理解することが鍵となります。音楽がその時代の人々にとってどのような意味を持ち、どのように使われていたのかを知ることで、音楽史が一層生き生きとしたものになるのです。
なぜ方法論が重要なのか？
従来の音楽史は、時系列に沿って事実を並べることに重点を置いていました。しかし、ジィーノたちは、これでは音楽の真の姿を捉えきれないと考え、新しい方法論を取り入れました。音楽の背後にある歴史や文化、思想を探ることで、音楽がどのように形成され、社会の中で役割を果たしてきたかをより深く理解しようとしたのです。
この方法論の進化は、音楽史を単なる「過去の記録」から、現代にも通じる生きた学問に変えるための大きな一歩でした。
多様な視点を取り入れた音楽史
第二版では、多様な視点が強調されました。各巻では異なる時代や地域の音楽が描かれ、それらがどのようにして相互に影響を与え合い、発展してきたのかが示されます。これは、従来の「ヨーロッパ中心主義的な」音楽史の限界を乗り越え、音楽が持つ多面的な性質を捉えようとする試みです。
さらに、音楽が社会や文化、政治とどのように関わっていたかを理解するために、社会学や心理学、民族学といった他の分野との関係にも触れられました。このような多角的な視点を取り入れることで、音楽史は一層立体的で、豊かなものになりました。
音楽教育への影響
このプロジェクトは、音楽史の再評価だけでなく、音楽教育の刷新にも大きな影響を与えました。ジィーノたちは、音楽史を学問的に厳密に扱いながらも、教育的に分かりやすく伝えることに注力しました。学生や一般の音楽愛好家も、音楽史を深く学び、楽しむことができるように工夫されていたのです。
また、各巻の最後には書誌的な注釈や参考文献が豊富に掲載されており、これにより、さらに深く音楽史を探求したい読者に向けた道しるべとなっています。このように、音楽史の学習者が自分自身で知識を深めることができるよう配慮されていました。
まとめ
1991年に出版された『音楽史』第二版は、音楽史を見直し、再評価する上で大きな役割を果たしました。ジィーノとイタリア音楽学会は、音楽をただの芸術表現としてではなく、社会や文化との結びつきの中で理解する重要性を示しました。この挑戦は、音楽がいかに多面的で、深い意味を持つかを私たちに教えてくれます。
この新しい音楽史は、これからの音楽教育や研究においても重要な基盤となり、音楽を通じて私たちが過去を理解し、未来を切り開いていく手助けをしてくれるでしょう。
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